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せきゆランプ
石油ランプ
寺田 寅彦
「文化生活の基礎」1924(大正13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,076 字 · 7 页
それらの店の店員や主人は「石油ランプはドーモ……」と、特に「は」の字にアクセントをおいて云って、当惑そうな、あるいは気の毒そうな表情をした。傍で聞いている小店員の中には顔を見合せてニヤニヤ笑っているのもあった。おそらくこれらの店の人にとって、今頃石油ランプの事などを顧客に聞かれるのは、とうの昔に死んだ祖父の事を、戸籍調べの巡査に聞かれるような気でもする事だろう。
ある店屋の主人は、銀座の十一屋にでも行ったらあるかも居〔知〕れないと云って注意してくれた。散歩のついでに行って見ると、なるほどあるにはあった。米国製でなかなか丈夫に出来ていて、ちょっとくらい投り出しても壊れそうもない、またどんな強い風にも消えそうもない、実用的には申し分のなさそうな品である。それだけに、どうも座敷用または書卓用としては、あまりに殺風景なような気がした。
これは台所用としてともかくも一つ求める事にした。
蝋燭にホヤをはめた燭台や手燭もあったが、これは明るさが不充分なばかりでなく、何となく一時の間に合せの燈火だというような気がする。それにランプの焔はどこかしっかりした底力をもっているのに反して、蝋燭の焔は云わば根のない浮草のように果敢ない弱い感じがある。