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せきゆランプ

石油ランプ

寺田 寅彦

「文化生活の基礎」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,076 字 · 7 页

青空文庫

その上にだんだんに燃え縮まって行くという自覚は何となく私を落着かせない。私は蝋燭の光の下で落着いて仕事に没頭する気にはなれないように思う。

しかし何かの場合の臨時の用にもと思ってこれも一つ買う事にはした。

肝心の石油ランプはなかなか見付からなかった。粗末なのでよければ田舎へ行けばあるだろうとおもっていたが、いよいよあたって見ると、都に近い田舎で電燈のない処は今時もうどこにもなかった。従ってそういう淋しい村の雑貨店でも、神田本郷の店屋と全く同様な反応しか得られなかった。

だんだんに意外と当惑の心持が増すにつれて私は、東京という処は案外に不便な処だという気がして来た。

もし万一の自然の災害か、あるいは人間の故障、例えば同盟罷業やなにかのために、電流の供給が中絶するような場合が起ったらどうだろうという気もした。そういう事は非常に稀な事とも思われなかった。一晩くらいなら蝋燭で間に合せるにしても、もし数日も続いたら誰もランプが欲しくなりはしないだろうか。

これに限らず一体に吾々は平生あまりに現在の脆弱な文明的設備に信頼し過ぎているような気がする。たまに地震のために水道が止まったり、暴風のために電流や瓦斯の供給が絶たれて狼狽する事はあっても、しばらくすれば忘れてしまう。