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すずりとすみ
硯と墨
中谷 宇吉郎
「座右宝」1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,996 字 · 22 页
単に煤煙だけの問題として、さらに煤煙は炭素であると言ってしまえば、何処の松でもよいはずである。松でなくても、梅でも桜でも燃してしまえば同じ炭素になるわけであるが、その方は一寸困る。炭素といっても、その粉が細かいことが必要なので、それには煤が一番手頃である。それで脂の多い松を選んで、それを焚いて煤を採ったのである。それではわざわざ陝西省などという交通不便な奥地まで出かける理由は、脂の多い松の木を選ぶためかというに、どうもそれではあまりに話が簡単である。何か他に理由があるのであろう。
第一、炭素の細かい粉と言ったが、単に細かい炭素の粉が欲しいのならば、桐油を燃して作った煤でもよいはずである。即ち油煙墨と松煙墨との区別など無いことになってしまう。それに一番細かい炭素粉といえば、工業方面で吸着剤に使っている活性炭などが最適であろう。これは動物の血液を燃して作った炭素粉で、非常に細かいものである。しかし今までのところでは、まだ血で作った墨という話はきいたことがない。もっともこれは一度は研究的に作ってみた方がいいかもしれない。
支那の製墨法では、煤の細かい粒子を選んで作った墨が上品とされているそうである。