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そぼのために

祖母のために

宮本 百合子

「文芸春秋」1925(大正14)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,632 字 · 16 页

青空文庫

祖母の仕業だ。祖母は朝はパンと牛乳だけしか食べない。発病した朝焼いたまま、のこしたのだろう。捨てることを誰も気がつかなかったのだ。涙組みながら、私は自分の涙を怪しんだ。奇妙ではないか、祖母は決してこのパンばかりしか食べるものが無かったのではない。美味いものがいくらも食べられた人だ。それだのに、この古パンの一切れを見ると、云いようなく哀れで、彼女の全生涯が、忘れられてカンカラに乾からびたこの一切のパンの裡に籠っているように感じるのは、どうしたことだろう。台所はからりとして明るく、西日が、パンの載っている金網の端に閃いていた。

私の祖母に対する感情は変った。考えて見ると、私と祖母とは、仲のよいような悪いような複雑な間であった。祖母は概して無智で、押しが強く、ごくの実際家であった。昔の女らしく、一種の陰険さもあり、見識がないから下らない気兼苦労をする人であった。私は、彼女の総てに朗々としないのが大嫌いであった。妙なことに拘わって、忍耐強い性格のまま執念くやられると、私は憎しみさえ感じた。そして、怒った。怒りながら、私は祖母のために、編ものをした。細かい身の廻りのことにおのずから気がついた。