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そぼのために
祖母のために
宮本 百合子
「文芸春秋」1925(大正14)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,632 字 · 16 页
けれども、この予想は誤っていた。祖母の臨終の時から、一種異様な寥しさが私の心の底に食い入った。死なれて見て、祖母と自分との絆が如何に深いものであったかを知った淋しさとも云える。何だか淋しい。心持の上で、祖母は死んでこの世から消滅し切ったものとは思えず、芝居でする遠見の敦盛のように、遙か彼方で小さく、まざまざと活き動いているのが見えるようだ。祖母の姿や声もはっきりしている。ふと、
「おばあちゃん」
と呼びかけたいような気持になる。然し、祖母は、もういない人だ。二度と会えない。どんなに思っても私の生涯に再び会える時は無くなったのだ。こんなに鮮やかに、こんなに微細な髪のくせまで判っている彼女の全存在が、只私の心にだけ止っている影像に過ないとは、何という不思議だろう!
物静かなこの淋しさは、私に種々のことを思わせた。特に、将来自分がいつかは経験しなければならない愛する人々との別離に対してどんな用意があるだろうか、ということが考えられた。祖母との訣別は思いのほか強く私を打った。祖母でさえそうだ。まして、自覚し思い込んで愛している幾人かの愛する者との別れが、不意に来たら、自分はどうするだろう。