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そぼのために
祖母のために
宮本 百合子
「文芸春秋」1925(大正14)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,632 字 · 16 页
帰って夜中祖母の傍についていた。翌朝五時頃眠って午後起き、また病室に行った。看護婦の数が殖え、医師のいる時間が延び、家中の生活に昼夜の境がぼやけ始めた。その恭々しい混雑の裡で、動かず、静かにしているのは、祖母だけだ。けれども、凝っと脈搏に注意したり息の音にきき入っていると、祖母はこれまでの祖母とはまるで違い、ひっそりした内密の魂の何処かで、いそがず綿密に何かの準備をしている人のように思えた。手落ちない、この世の最後の仕度にとりかかっているような。傍の私などに窺い知れない内部的なものが生じたようでさえあった。
臨終は、ごく穏やかであった。細る呼吸に連れて生命が煙のように立ち去った。体は安らかで知覚なく、僅に遺った燼のように仄温いうちに、魂が無碍に遠く高く立ち去って行く。決して生と死との争闘ではなかった。充分生きた魂の自然な離脱、休安という感に打れた。八十四歳にもなると、人はあのように安らかに世を去るものなのだろうか。
私は、これまで弟妹や外祖母、叔父などの死に会っていた。その経験から、この祖母の死も冷静に受けられると思っていた。年に不足はないのだし、苦痛ない往生を遂げたのだから。