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かみだな
神棚
豊島 与志雄
「新潮」1923(大正12)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,427 字 · 44 页
広い通りの十字街だった。満員の電車が幾つも幾つも通り、暖かそうな人顔の覗いてる自動車が駆けぬけ、手に買物の包みを下げてる人々が、嬉しげな気忙しなさに足を早めていた。
「なるほど世の中は忙しいや。呑気なのは俺一人かも知れない。お久の云うのも道理だ。だが、俺には全く何の当もないんだからな。当がないのに急げったって……。」
けれど、そんな風に考えてるうちに、俺は二足三足歩き出していた。ふらふらと我知らず電車道を横ぎると、其処の唐物屋の窓口に、クリスマスの飾物がまだ残っていた。杉の青葉に蜘蛛の糸のような銀糸が張られて、赤い帽子に赤い着物に長靴をつけた白髯の爺さんが、にこにこした顔付で立っていた。俺は長い間それを極めていた。――そうだ、俺にだって今にサンタクロースの爺さんが、素敵な幸福を持って来てくれないとは限らない! その縁起をかつぐわけではないけれど、一寸自分に自分で口実を拵えるためもあって、子供にキューピスさんの人形でも買って家に帰ろうと思った。
雨はもうぱらぱらと、俯向いてても分るくらいに降ってきた。俺は少し急ぎ出した。或る玩具屋の店先で、乏しい蟇口の底をはたいて、五銭もするセルロイドのキューピスさんを四つ買った。