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きんだんのししん
禁断の死針
野村 胡堂
「講談倶楽部」1929(昭和4)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,500 字 · 7 页
「己れッ」
原口作左衛門、漸く立ち直りましたが、もう身体がききません、僅に探り寄せた一刀、それでも武士のたしなみ、引抜き様、横にサツと払いました。
「あれッ」
斬られたのは、佐の市ではなくて、刃の下へ飛込んで来た妾のお元、
「お兄様、面目ない、――私はお前の妹のお元、悪人の手に誘拐かされて、心にも無い妾奉公、親の讐とも知らずに此奴に身を任せました、兄上様許して――」
「何? 妹、お元? お前は此処に居たのか、どれどれ、側へ寄って触らせて見せろ、お元ッ」
「お兄様、私ア斬られました、――お前の身代りに――本望、お詫びはあの世で――」
「何? 斬られた? 妹ッ」
盲と断末魔の女と、探り寄り探り寄り、血潮の中に犇々と掻い抱きます。
「漆検校、それに相違はあるまいな」
「ハッ、恐れ乍ら申上げます。佐の市の打ったる針は、十四経和語抄に掲げました、六百五十七穴の内の一つ、禁断の鍼とは思いもよらぬこと、決して間違いは御座いません」
証人とは申乍ら、検校の位を持って居る程の人物、まさか砂利の上へ坐らせるような事はありません、縁側の上へ座を与えて、町奉行の言葉からして至って丁寧です。