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きんだんのししん

禁断の死針

野村 胡堂

「講談倶楽部」1929(昭和4)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,500 字 · 7 页

青空文庫

「宜しゅう御座いますか旦那様」

五音の調子に少し顫えを帯びて居りますが、横になって妾お元の美女に眺め入って居た原口作左衛門、そこまでは気が付きません。

「あ、やって貰おう」

何心なく斯う申します。

左の示指と拇指で、作左衛門の首筋をピタリと押えた佐の市、これは圧手と言って、その道ではなかなかやかましいもの。伝書には「手に虎の児を握るが如く、薄氷を踏むが如く、深淵に臨むが如し」などと教えて居ります。

やがて佐の市の右手に、十番の大金鍼、毒虫の触覚のように動くと、圧手の間から作左衛門の項へ深々と打ち込まれます。

「アッ」

と苦悶の声、

「黒沢岩太郎覚えたか、按摩の佐の市とは世過ぎの仮の名、本名は磯見要の一子佐太郎、二十年目で敵の仇にめぐり逢うとは、日頃信心する観音様のお引合せ――、

盲の悲しさ、刀を持つ術は知らないが、鍼を持っては人に後れを取ろうとも覚えない、今打ったのは、十四経にも禁断の鍼として、固く戒めている頂門の死針、どうもがいても助かりようは無い、親の讐、覚えたか」

首筋に打った金鍼を、揉み込み揉み込み、佐の市は、見えない眼を剥いて名乗りかけます。