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わたしのおぼえがき

私の覚え書

宮本 百合子

「女性」1923(大正12)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,746 字 · 18 页

青空文庫

福井を出発する時、前日頃、軽井沢で汽車爆破を企た暴徒が数十名捕えられ、数人は逃げたと云う噂があった。旅客は皆それを聞き知ってい、中にはこと更「いよいよ危険区域に入りましたな」などと云う人さえある。

五日の暁方四時少し過ぎ列車が丁度軽井沢から二つ手前の駅に着く前、一般の神経過敏をよく現した一つの事件が持ち上った。前から二つ目ばかりの窓際にいた一人の男がこの車の下に、何者かが隠れている。爆弾を持った〔二字伏字〕に違いないと云い出したのであった。何にしろひどいこみようで、到底席などは動けないので、遠い洗面所その他はまるで役に立たない。その人は、窓から用を足したのだそうだ。そして、何心なくひょいと下を覗くと、確に人間の足が、いそいで引込んだのを認めた。自分ばかりではなく、もう一人の者も間違いなく見たと云うのである。

初め冗談だと思った皆も、其人が余り真剣なので、ひどく不安になり始めた。あの駅々の警備の厳重なところを見れば、全くそんな事がないとは云われない。万一事実とすれば、此処にいる数十人が、命の瀬戸際にあると云うことになる。不安が募るにつれ、非常警報器を引けと云う者まで出た。