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わたしはだれ?
私は誰?
「新生 第三巻第二号」1947(昭和22)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,584 字 · 14 页
尾崎士郎はこの正月、原子バクダンなる猛酒(伊東産、ブタノールという奴)に前後不覚になって、折から伊東の旅館に疎開中の幸田露伴先生を叩き起し、先ず踊りを披露に及んだのち、日本で一番偉い小説書きは露伴先生及びかく申す拙者であると太鼓バンを捺して証明に及んで帰ってきて、翌日恐縮して嘆くこと嘆くこと。然し、嘆くなかれ。それでよろしい。露伴先生は大人物だから、深夜に叩き起されて駄ボラを吹かれて怒る筈はない。露伴先生は後日訪れた人に向って、尾崎士郎という先生は猫をかぶっているという話だが、元々猫ではないか。してみると、虎をかぶっているとすると、虎かな、と言ったそうだ。愉快々々。
僕が尾崎士郎先生とどういう因果で友達になったかというと、今から凡そ十年、いや二十年ぐらい前だろう、私が「作品」という雑誌に「枯淡の風格を排す」という一文を書いて、徳田秋声先生をコキ下したところ、先輩に対する礼を知らない奴であるとフンガイしたのが尾崎士郎で、竹村書房を介して、私に決闘を申しこんできた。場所は帝大の御殿山。景色がいゝや。彼は新派だ。元より私は快諾し、指定の時刻に出かけて行くと、先ず酒を飲もうと飲むほどに、上野より浅草へ、吉原は土手の馬肉屋、遂に夜が明け、又、昼になり、かくて私は家へ帰ると、血を吐いた。