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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
13 黒白帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页
などという流言も立ち、無知な民心は、そんなことにもすぐ暗い不安にゆすぶられた。
しかし、ことしに入ってからの変異は、ただの怪奇な流言だけでなく、目にもわかるような乱波活動が頻々だった。その多くは放火であり、なかでも顕著なのは、三月十四日の夜半、尊氏の御池殿の全館が、焼亡したことである。まったくの怪し火で、出火の原因も不明だった。
それいぜんには、清水寺の焼失があり、持明院の一角からも火が出、そのほかの小火災と来ては、毎晩のようだった。
けれど、それらの変異に馴れッ子になっていた人心も、六月十一日の四条河原の勧進田楽の大椿事にはきもをつぶして、これはただ事ではないぞとみなおぞけをふるッた。
この勧進田楽には、将軍家の尊氏夫妻をはじめ、北朝の歴々、女院、宮、いわゆる月卿雲客から市中の男女数万という見物が群れ集まっていたのである。――勧進元は、祇園の僧行恵という者で、四条大橋を架すための浄財をあつめるのが主目的であり、役者も新座本座の一流をよりすぐった大興行であったのだ。
そして、八人法師の拍子打ちに始まって、簓踊りは本座の阿古、乱どり舞は新座の彦夜叉、刀玉取りは道一と、おのおの妙技をつくして、猿楽の一と幕も佳境に入り、やがて将軍家の桟敷わきの橋がかりから、練貫の褄を高くとった美貌な女役者が、半開きの扇を眉