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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
13 黒白帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页
また、響きに応じて、加賀の富樫、能登の吉見、信濃の諏訪、そのほか、事を好む豪族は、みな彼が尊氏から離れたことを惜しむよりは歓迎していた。
車軸はもう廻り出している。直義にも制御のつかない勢いだった。気勢は正面を切って、尊氏を敵とし、あらゆる布陣と手を打ちはじめた。
朝廷をそそのかして叡山へ動座をうながし、北朝のみかどを越前へ迎え取ってしまおうなどの策もすすめられたが、しかしこれは尊氏の阻止で失敗に終った。――尊氏もまたもう状勢を坐視してはいられない。彼は彼のうごきに出ていた。
八月七日。
尊氏は、法勝寺の恵鎮を賀名生へやった。南朝へ降を申し入れた重大な使いであった。
「こは?」
と、南朝方でも一驚を喫した。尊氏は困っている。内も破れ外も乱脈だ。弟にさえそむかれて絶体絶命な窮地にあると、ここでも観ていたところだが、
「それにせよ、尊氏が?」
と、この申し出でには、賀名生の朝議も、慎重をきわめた。そして朝議はこれを「拒絶」と決めた。もちろん北畠親房が主唱である。ここにはまだ統率の制が厳として生きていた。親房の手のうちもまた細かい。親房は言ったのである。
「先には直義が兄へ弓を引く名分上、偽って南朝へ降った。