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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

「日夜、中央の危急を案じながら、むなしく、四囲の草賊にさまたげられて、ことしもまた、雪にとじこめられなどしたらなんとしよう。国の大事、吉野のご浮沈。もはや猶予のときでない。途中で倒れるまでも行こう! 八月十一日、ここ霊山を発足するぞ」

と、ついに令を出した。

これをたすける人々には、結城宗広、伊達行朝、そのほか、奥州五十四郡の心ある武士どもがあった。――それに国司勢をあわせるとほぼ一万騎にのぼる勢いをなした。――青襟の将軍顕家のけなげな意気に打たれて奮い立ったものか。それもあろうが、皇室を大事に思うことでは、むしろ僻地の武族や若者の方が純であったかもわからない。

八月十八、十九の両日には、はやこの二度目の上洛軍は、白河ノ関を突破していた。勢いは風より疾く、秋の千種に見送られて、兵の眉も爽やかだった。

やがて宇都宮についた顕家は、そこから一使を、吉野朝廷へ飛ばしていた。

「みちのくの精鋭一万、霊山を立って、白河ノ関を越え、ここまで来ました。前途幾山河、なお途々の敵の邪げは想像を絶しましょうが、一念、くじけることはありません。――咫尺に罷り出ずる日は、今年中か。