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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

そう道誉にも看破られていた尊氏の気の弱い顔の暗さは翌日までもつづいていた。どこか体の病症でも感じているのか、物に憑かれた人のようでもあった。そしてこの日も、戦局の危急を告げてくる声はしきりだったが、何か落着きを欠き、それの指令すら忘れているような尊氏だった。

いつか午後となっている。急に彼は小姓をやって、延福寺の警固の将をよびよせていた。

呼ばれたのは、二階堂信濃ノ入道であった。彼は、延福寺におかれている恵源禅門(直義)の警固役の責任者であり、毎度のこと、尊氏からは直義の起居、食事、健康上の容子を訊かれるのがつねであったから、きょうもそれかとばかり心得て、

「信濃にござりまする」

と、いつものごとく管領邸の庭へ来てぬかずいた。すると廊の上に見えた尊氏は、黙って顎を横に振って、すぐ自身から先に縁を歩いて行った。で、彼は少し勝手ちがいに戸惑ッたのみでなく、尊氏のいつもにない恐い顔つきも、ふと気にかかった。

小壺(中庭)のうちの日当りわるい一室に尊氏はもう坐っていて、信濃を見るとただ一言「……上がれ」という。依然、尊氏の容子が信濃には異常だった。

それにこの日にかぎって、直義の細々しい日常事は何も問われず、ただひとつ訊かれたのは、