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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

尊氏は、臨川寺の三会院に、夢窓国師を訪ねていた。

むかし、鎌倉にいた頃から深く帰依していたあの禅師(当時、疎石)で、建武元年、尊氏のあつかいで朝廷にまねかれ、後醍醐もまた弟子の礼をとっていた。つまり後醍醐にとっても尊氏にも共に、師たる夢窓国師なのだった。

「さあのう。御発願の心は分らぬでもないが」

この朝、尊氏が折入っての申し入れに、夢窓はあまり気のりでなかった。――征夷大将軍大納言尊氏――というゆゆしい客も、この室では、ただの一法弟にすぎなかった。

「いかがでしょう」

尊氏はかさねて懇願した。

「ぜひに、ご承諾を得たくぞんじまする。再三の使者を以ていたしましたが、おきき入れなく、為に今日は自身伺ったことなので……」

亡き後醍醐の霊をなぐさめるために、このさい、一大寺を建立したい。

それには嵐山を望む大堰川から太秦のあたりまでをふくむ亀山上皇の離宮のあとがある。その地域をあてて、寺名も北朝年号をそのまま「暦応禅寺」となし、国師に、その開基となってもらいたいというのが、尊氏の希望であった。

が、夢窓は、

「寺をつくるなら、なにもわしでなくともよかろう。天台や真言の律宗がよい。