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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

しかも、その北条氏はなお、公卿に公卿威張りの虚栄と虚位官職をあたえていた。しかし尊氏は、それもほとんど武家の手にとってしまった。

――すなわち自身は、三位ノ大納言征夷大将軍となり、直義を副将軍従四位となし、一族四十三人それぞれに官位をさずけ、一切の政治的中心力を、新幕府のうちにおいた。

が、尊氏はまだどこか、生来の大ざっぱなふうでそれをやっている。――しかるに、この人の腹中にまで入って万端をきりまわしていた将軍家執事の師直だった。がぜん彼の門に、媚態の客や贈賄の使いが群れをなしたのは、奇異な現象でも何でもない。

贈賄の寄る門には、その贈品に主人の好癖があらわれる。先の好まぬ物は運んでも意味がない。贈賄者はみな腐心する。

なによりも正味の金がおすきらしいと分れば、金を。

書画骨董がすきと知ればあらそって宋元の名品だの、雨過天晴の佳品やらを。

また、或る時代に時めいた一宰相は、

「鶉がおすき」

という評判を得、邸内はまたたくうちに、天下の稀種を入れた鶉籠やら黄金や銀の鳥籠で足のふみばもなくなったなどという話もある。

だが、師直はやや違う。すくなくも尊氏から、