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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

とその好色を隠そうともしなかったらしいこと、またもっぱら、その野性で醜男な身をもって、高貴の女性を選り漁ったこと、さらには、尊氏に代って、軍政の両方面にわたり、憎まれがちな敵役はみなひきうけていたなどに起因するのではあるまいか。

近ごろ、彼が手にいれて、昼夜、愛寵愛撫、措くところを知らない二条家の姫ぎみなどにも、彼のやりくちはよく出ている。

その佳人は、二条前ノ関白の妹だった。

どこで見たのか、師直は恋をした。いや恋とはいえない。猛獣の食欲ともさして違うものではなかった。

「ぜひほしい。正妻はある身だが、すでに老妻。正室の待遇をあたえて大事にしよう」

率直に、申し入れた。

が、二条家では当然、婉曲にことわった。

いわゆる摂関家につらなる名門だ。そこの深窓の姫はいつの世でも女御入内の候補者であり、時をえれば中宮の位に即く。……いかに世とはいえ、東国のあらえびす、尊氏の家宰、いわば陪臣ではないか。

世間ていからも、二条家では、あやまるしかなかったろう。よろしい、と師直はそれに怒るふりでもなかった。

「そうか、なるほど公卿は見得坊なものだったな。二条家の体面を損ねぬようにすればよいのであろう」