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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

いいえ、義貞殿から鎌倉の府へ、こよいの喧嘩を、もし悪しざまにでも上訴されたら、もそっと大きな禍いが返ってくるのは眼に見えている」

「む、無念です」

「いかなる怺えを抱いても、新田殿へ膝は折るな、蟄居のせがれに会わせて給えなどと、義貞殿にすがってはならぬぞと、わが夫の貞氏どのからも、つねには固い御書状であったが……よも今は、後でのお怒りもありますまい」

「わ、わたくしが、まいりましょうず、母上、私をつかわして下さいませ」

「あなたが、何しに」

「義貞殿に、頭を下げて謝しまする。かつは、こよいの下手人こそ、この直義と、彼の怒りでも仕置でも、この身に耐えて」

「それこそ、ただ笑われ草。兄一人の蟄居で足らず、弟までが来つるわと、そのまま、鎌倉表のお下知あるまで待てと留めおかれても是非なかろ」

すると、廊の外から、ことばの途切れを機に入ってきた静かな人がある。まだ三十路がらみのきれいな尼御前であった。清子の横へ、手をつかえると。

「北の方さま。世良田のお使いには、私がまいりましょう。この尼をおやりくださいませ」

ふと。気づかずにいた二人は、びくとしたように振向いた。

「お。