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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

そして小太郎君(義貞)のお相手にはよい者と選ばれて、ここから近い利根川の舟遊び、文珠山の紅葉狩り、冬は小坪の雪団めと、四季いろいろな記憶は多い。

また、それほどな過去の親しみに甘える気もあればこそ、今日の至難な役を、われからひきうけて来たのではなかったか。……まもなく、彼女は彼女自身の内に、なお恥かしい血のゆらぎがつねにあるのを自覚して、そっと耳の色を紅くしていた。

「ところで」

と義貞は、眼をとじた。わざとらしい振りもなく。

「ほかならぬ尼御前のおすがり、いま申された一事は、よう考えておく」

「ですが、足利家では、北の方さま、直義さま、家臣輩まで、命もちぢむ思いで、尼の返辞を待ちおりまする。どうぞ、お胸のところをたった今」

「すぐ聞かせよというのも無理な。わしにも舎弟や老臣もおる。わけて弟、脇屋義助はきかぬやつでのう。めったに、うんとはいうまいと思われる」

「とは申せ、おん兄君の御意とあれば」

「そこが難しい。さかのぼれば、両家の確執は、きのう今日のことでもなし」

「御不幸な」

「どっちが」

「御両家ともにでございまする。……この上野下野の両国に、一つ根から咲き分れた由縁も古いお家ですのに」