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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

父とよばれる自分だなどとは」

「でも、あの夜、形見ぞといって下された地蔵菩薩のお守札こそ、思えば、こうなる約束事の護符だったのでございましょう。いまでは、父御のお手に代って、和子の肌守札となっておりまする」

いわれてから気がついたのである。藤夜叉のからだには、乳の香がある。産んだのは、本当にちがいない。

だが、たった一と夜のことが?

高氏は疑った。子の父だと、宣告されたことにもゾッとしたのである。無性に拒否の理由を探す狼狽のみが先立って「……そうだったか」と、素直に服しきれないのだった。

「……?」

男が、どんな反射を示すだろうか。父を肯定して、よろこぶだろうか、否か。女の瞬間の眸は、男のうろたえ顔から些細な心のかげも見のがすまいとしていた。その眼には、恋もなければ、寛容もない。真剣である。

男は、それに、恟みを覚えた。拒否の心理は、意気地なく、男の心の内がわに閉塞される。

高氏は、首を垂れた。――思わず洩れる吐息とともに、天の授命を、受けとっていた。

「ね、小殿」

彼女はすぐ姿態をかえた。やわらげて見せた眸は、女の大きな安心を意味していた。

「……まだ。