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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

――時と日をきめて、折々に大臣山のすそで出会い、やがてよい機会に、お会わせしようと。

で、以後も何度か、藤夜叉とは落ちあっていた。もちろん、高氏には、何も告げてない。

七月も終りかけていた。

上杉憲房が、赤橋殿を訪う日が多かった。登子と高氏との結婚が、そのたび進められているものと、彼は見ている。それもまた、気が気ではない。

その上、高氏の結婚ばなしが、国元の足利へも伝えられたか否かのとたんに、右馬介宛てに来た厳封の一書は、一そう彼の悩みを深刻にした。

彼宛てに、国の密使がもたらした書簡は、高氏の弟、直義からのもので、それには、

“……兄は赤橋殿の妹君を娶るそうだが、赤橋殿は執権の近親、いささか疑いなきをえない。なにか政治的な底意でもある縁組みではないのか。兄の将来を塞ぐおそれがありはしないか。よくよく、心して真実をたしかめよ”

と、ある。

兄の大事と、万一をおもう弟直義の真情が、眼にみるごとく、あふれていた。

しかし、文中には、情愛の上だけでなく、“兄高氏の大望”という秘事にもふれていた。直義は、その事実を、眼に見たとも書いているのである。

――かつて高氏が、鑁阿寺の御霊屋に入り、家時公の置文を見た上で、それを焼き捨ててしまったことを、直義は「――眼に見た」