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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

が、一方。

錦小路高倉の多治見国長を襲った本隊は、完全にそこの土塀を取りかこんで、矢を射こみ、裏門表門から、武者声をあげていた。

こんな不意を見ようとは、つゆ思わず、多治見はその晩も、文談会で馴じんだ遊女を宿所にまねいて、おそくまで飲んだあげく、共に寝所へはいっていた。

妓こそは、災難であった。

厠から出て、何気なく、掛樋縁で手水をつかっているところへ、ぶすッと、すぐそばの妻戸を、物凄い音がつらぬき、一本の矢がそこに突き立ッたので、

「――きゃっ」

自分の悲鳴に気を失った。

それを耳にし、一番に躍り出ていたのは、宿直の小笠原孫六で、築土のみねに登って見ると、はや、ここを遠巻きにした軍勢の上に、一旒の車ノ輪の旗が、あざらかに見られた。

「殿っ」

奥へ駈けこんだ孫六は、喘く息もつかず、一気に寝所の内へ告げた。

「六波羅の討手な襲せて見えまするぞ。必定、一味御謀反の沙汰、事あらわれしかと覚えられます。……疾う疾う、お覚悟をこそ」

「孫六か」

と、内の声で、

「矢さけび、ただ事ならじと、身は鎧うた。門をかためよ。門櫓には、あるかぎりの矢を運びおけ。いままいる」

と、聞えた。