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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页
――彼女らは心得て、朝霧の中に離れていた。とはいえ、腫れぼったい今朝の顔を見ればすぐ判る。――護送使の工藤、諏訪などの頭立った面々には、さすがテレ気味がおおいきれない。
およそ海道宿々の遊女は、いよいよ殖えるばかりに見える。公私共に、男の体は、遊女から遊女の手へと、夜ごと引き継がれてゆくような旅だった。――ここから先にも、清見潟、黄瀬川、足柄、大磯小磯、そして鎌倉口の仮粧坂まで、ほとんど道の辺の花を見かけない宿場はない。
だが、路傍の花も、道々の風光も、何の旅情でもありえなかった。日ならずして、護送の列は、鎌倉の府に入る。
少憩の後、
「両名の身は、審問の相すむまで、侍所に預け置かる」
と、沙汰される。
ここでも、日野資朝と日野俊基とは、顔を合せる折もなかった。隔離は完全に行われ、監禁の場所も、極秘に付された。
おそらく、資朝も俊基も、
「裁きは、すぐにも」
と予期していたろう。
が、その審問はなかなか開かれそうもなかった。そしてこの直後、時局の側面的な変化が、朝廷と幕府の間に、見え初めていた。
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