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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

「はい。お変りなく、と申しあげても、盲の身、御成人ぶりも仰げません。……私も大きくなったでございましょう」

「ムム、あの頃よりはな。……幾つになったの」

「十四になりました。あの折お誓いしたように、琵琶は片とき離さず習んでおります。こんな、おとりこみの日でなければ、一曲でも、修業のあとを、聴いていただきたいのですけれど」

「よい折に、いつか聴こうよ。――おお母の草心尼が降りて来る。母と一しょだったのだな」

「ええ。晴れのお屋形の間ごとに花を挿けねばと、花を集めにこれへ登り、母が待てと申すまま、私のみ、独りポカンとここに居眠っていたのでした。……あ、お母あ様、ここですよ。高氏さま、直義さま、お揃いでここにおいでなさいますよ」

丘の上から近づく母の跫音にさえ、覚一はそぞろな両手を空にまさぐって、もうすぐ他愛ない子に返っている。

草心尼は、花籠を腕にかけ、高氏たちを見ると、遠くからホホ笑みかけていた。

以来のあいさつは、昨日、大蔵に着くと早々すんでいたこと。ここでは、内輪同士の親しさがあるだけだった。――ほどなく、四人皆して覚一の足もとを労りながら、屋敷の裏へ降りて行った。