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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页
いま、彼の感情で聞けば、怒濤の響きをなして迫ってくる。
「…………」
見るに耐えず、眼をふさいだものの、心の耳はおおうべくもない。
むごい、悪戯だ。
座興とか皮肉とかの度もこえて、これは高氏への、刑罰にも値する。
「こんな悪戯の、どこが、執権の御興に入るのか。道誉がホクソ笑むところなのか」
高氏には、両者の気もちがわからない。いかに婆娑羅遊びに徹したものといえ、量見がくみきれない。
だが、この皮肉な贈りものは、道誉として、よほど前々からの計画だったものだろう。――結婚前に、ふと途上で会ったときの彼のことば。また、藤夜叉を祝言の使者として大蔵へさし向けて来たなどのこと。
さらには、藤夜叉がその折「――近いうちに、もいちど、お目にかかれましょう」と、いったことなど思い合わすと、すべては、道誉の書いた筋書と、頷かれてくる。
その道誉は、まま自身筆を執って、田楽狂言の戯作をこころみたり、世に流行らせている自作の歌謡なども多いと聞くが、なるほど、それくらいな才はあろう。彼は才能の鵺でもある。
が、鵺の意図は、果たして、これだけのものだろうか。
自分と藤夜叉とを、大宴の肴にして、なにも知らぬ満座をべつに、太守高時と道誉自身だけで、ひそかに、皮肉な甘味とおかしさを、舌なめずりして飲もうというだけの悪戯にすぎないものか、どう