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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

まことの挑戦状なら、何であのように艶めかして書こうぞ。それとお判じがつかなんだとは、さても婆娑羅を知らぬ一徹な御仁かな――と、また腹を抱えて笑いおった」

「何、あれが、洒落文ですと」

「見事まず、こちらの弓弦を引っ外されたような心地」

「狐め。ばさら狐だ」

「いや、そのあと、いんぎんに爾来の不沙汰を真顔で詫び、折入ってのお話もあれば、今日の帰りを曲げて、ぜひ、道誉の積良ノ別亭まで、お立寄り願われまいかという、あいさつ」

「ははあ、それで駒を並べて」

「まずは、そんな仔細」

「ちッ、馬鹿気ている!」

直義は、もう耳もかさない。

弟の、弟らしい気色ばンだ反撥ぶりを、高氏は微笑に見つつ、下タ手に言った。

「まあ、さようにくさすな直義。ばさらにはばさらの取柄もある。道誉とて、当代少ない一人物だ。あの才能やら変通自在な妙所は、この高氏にはないものだけに魅力がある」

「そうでしょう、河豚は美味い、だがその毒では人も死ぬ」

「毒は捨て、美肉だけを、味わえばいい」

「蘇東坡は犬へくれました」

「高氏は賢人とちがう」

「では……」と、直義は、あらわに感情を弾ませて――

「どうしても、道誉の誘いにまかせて、今日のお帰り途を、彼奴の積良ノ別亭とかへ、お立寄りなされますか」