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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

ちらっと高氏の横顔を見て。

「そこで当然、次代の執権職は、誰かとなるが、御一族中では、赤橋守時殿などが、最も望みを嘱せられておる。……もし赤橋殿が、次の執権職と定まれば、申すまでもなく、高氏どのは、一躍、執権職のおん義弟君と仰がれるわけ……。いや、えらい御栄達が目に見えておる」

当の高氏よりも、この話は、義貞の気色を、妙に騒めかせた。義貞の嫉みが眼いろに出た。酒も冷えた。――が、まもなく、高氏は、弟直義が向けてよこした迎えの郎党が、来たのを機に、あっさり、積良ノ別亭を辞して出た。

まだ赤富士が、夕空に見えた。

夕から夜へかけて、高氏は、供の郎党たちと共に、鎌倉府内へさして帰る途々、馬上の黙想は、いつか、道誉一人のことに、とらわれていた。

道誉、佐々木道誉。

自分にとって、こんな妙な、ニガ手な存在はないと思う。

「彼こそ、当代、婆娑羅者といわるる者の代表だ」

と、分ったような心得でいるが、事しばしば、彼との交渉になると、さて、分らないだらけになって来るのである。

二人の間には、いつも一匹の蜘蛛がいて、目に見えない運命の糸に縢られているような気がされてならない。