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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

深傷はうけなかったが、藤五の切ッ先には、手ごたえがきこえた。――数歩、よろめいた伝次は、当然、逆な受けに廻されていた。

「八郎太、しっかりしろ」

相手の挫折に力をえて、一人の敵に、二人はやっと、息を合せた。といっても、長柄を以て手馴れの打物とし、太刀は使っても、まだ剣法の技も工夫されず精神もなく、ただ兇器の役だけをしていた時代だ。太刀を持っての殺し合いだとも、いえばいえよう。

「やいっ、藤五」

「伝次。考え直したか」

「くそ。それでも、きさまは人間か」

「おおさ、人間なれやこそ、宗旨をかえた。ひとの宗旨がえに、邪魔するな」

「よく吐ざいた。人間の皮をかぶッて。――うぬとて、昨日今日の武家郎党ではあるまいに」

「だからこそ、飽き飽きしたのだ。きさま、つまらぬ忠義立てすると、二つとない命もここでおしまいだぞ」

「気狂いか。魔に憑かれたのか。眼をさませ、うぬも八郎太も。二人とも、主家には御恩も浅からぬ親代々の郎党だろうが」

「うるせいッ、談義などは」

「鬼にも耳がある。まあ一言聞け。たとえ、きさまたちの悪心が思うツボに行ったところで、主家の上杉家には、うぬの縁故や老幼か残っているはず。