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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 页
と、今朝は思いつづけられたことであった――と、ここで天皇は、その“夢ものがたり”の話を切った。
始終、人々は聞き入っていた。あらかたは、聖慮を酌んでいたのである。――が、畏んで、
「お夢は、まさに吉夢と申すものでございましょう」
と、まず藤房が答え、つづいて公敏や忠顕らも、口をそろえて、いい囃した。
「行宮の下の岩壁には、年月もわからぬほど古い弥勒、虚空蔵の二菩薩が彫ってある」
「お夢に現われた童子とは、そのみ使いであったものか」
「亭々の一樹は、南の木。このあたりに、楠という者がいるのであろう」
「ならば、きのうもおうわさに出た、楠木多聞兵衛正成をさすのでしょうか」
「それよ、それをたのめとの、ご夢告にちがいない」
余談となるが。
天皇軍の笠置備えにあたって、旗上げ第一の重要事となった、
“主上お夢の事”
は、古くから有名なはなしであって、かつては国民伝説ほどな力をもって、諸書に語りつがれて来たものである。
これが「古典太平記」を元として、なんら拠りどころない一場の架空談とは、史家の史説をまつまでもなく、現代人には、わかり切っていようというもので、私本太平記の筆者もまた、夢そのままを、おしつける気は少しもない。