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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 页
「それは秘中の秘。……さ、それはだな」
義貞は口を渋った。まだいくらかの疑惑を二人へもつらしく、その人態などを眼で舐ぶるがごとく見直すのだった。
ここは“ツメ手”というところである。
天下諸州にわたる宮方と北条幕府とのたたかいも、ほぼ終盤に入っている。
そして、北条氏の王将の府「鎌倉」だけが、いま詰むか詰まないかの境にある。だがまた、もし下手に詰めそこねたら、これまでの宮方の優勢とて、さてどうなるかわからない。
「七郎っ」
義貞は見まわした。
呼ばれて、
「これにおります」
と、諸将のうちでも一トきわ若いひとりの若武者が、すすんで、義貞のことばを待った。
一族の、新田蔵人七郎氏義というものだった。
「七郎、大手への先陣をつとめろ。――すぐ腰越から七里ヶ浜を駈けて、極楽寺の下へせまるのだ」
「これは……」と、蔵人ノ七郎は武者ぶるいにふるえ。「身の面目にござりまする」
「待て。まだある」
「は」
「海上に船手をつらねて待つと聞く三木俊連の一勢は、すべてそちの指揮下とする。――よいか、三木の使い両名も、すぐ馬をとばして、このむねを俊連以下の人々へ達しておけ」
この朝、これが義貞の最初の軍令であった。