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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 页

青空文庫

「お案じなされますな。御家人中でも、日ごろ厚くお目をかけ給うた五大院ノ宗繁が、お救い出しに、まいったはずでございますれば」

「いやその五大院ひとりでは、万寿、亀寿の幼い兄弟を、しょせん一時に助け出すことはなるまい。兄の万寿はよそへ落したろうが、弟の亀寿は、たれの手にまかせたことか」

「噂では、ご舎弟泰家さまの郎党、諏訪三郎と申すものが、まだ火のまわらぬうち、亀寿さまを負うて、鶴ヶ岡の峰ふかく逃げ入ったとのことでございますが」

「たしかか。それは」

念をおされると、金沢の崇顕は、それにも、あとのことばが出なかった。

覚海尼公が、子の高時を、どこかで見まもっているように、高時も二児の父として、さっきからここで胸を焦かれていたのらしい。

だが高時も、どうにもならない現状は知っている。煩悩にすぎないものとは分っている。ぬかずいている爺をすてて、彼はもう荒々と歩いていた。また、くるりと、こっちへ引っ返していた。その足もとを、火のチリを交ぜた熱風が、いくたびとなく掃いて行き、谷のふところは、夜のような煙にとじこめられ、一瞬、東勝寺堂塔の瑶珞が、遠くの炎に、チカと光った。