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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 页

青空文庫

権を執る世にまた成れかし

と、乱を終った今またすぐ、乱を待つような危険な心理におちいっていた。

元々、彼らにすれば。

その全部とはいえないまでも、大部分の武士輩が、北条の下ではうだつも上がらぬものとみて、土地欲、子孫繁栄欲、身一代の名聞欲などを、この風雲に賭けたのであって、

朝廷が何であるとか

なぜ天皇を至尊と仰ぐのか

そんな理解はおろか、信念らしいものは、いたって希薄なのであった。――決して、勤王などという語義がわかっていたわけではないのである。

いわんや、公卿当局がここへきて、“中興ノ新儀”だの“復古ノ御新政”などと謳ったところで、武士あらましは、馬耳東風の面でしかない。そしてただ、

「どうしてくれる?」

とばかり、都のうちにふみとどまって、都じゅうを馬糞と馬蠅の巷となし、大刀、長柄を横たえ歩き、何か、事件こそ起れと、物騒な放言や火遊びを持ち廻っている状だった。

そこで不思議な戦後社会の現象が菌みたいに咲き出してきた。――蒔いたタネにはちがいない。しかし公卿理想にしろ、武士の戦争目的にしろ、あんな大量の血をながして、こんな化け菌を巷に見る気でなかったのはもとよりだろう。