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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 页

青空文庫

ふと黙った。忠顕がである。

なに、それは、足利尊氏が上申して、道誉の戦功をつよく主張し、その実現に努めた結果にほかならない。――ということを忠顕は知っているので、もしや道誉も知りつつトボケているのではないかと、ふと彼の一ト皮下が恐く思われたからであった。

しかし、ここでの道誉は、千種ノ中将忠顕にとって、まったく無二の者に思われた。こういう顧問は、彼には必要なのである。婆娑羅な半面もよく気が合うし、わけて武将間の内輪さぐりにも、市井の雑訴を知るうえにも、得やすからざる人物、最良な顧問役と、彼は見ている。いまも信じて疑わなかった。

「使いをやろう。さっそく」

「お使いで事足るでしょうか」

「わしと法印との仲なればだ。わざわざ両名が首をそろえ六角へ行くにもあたらん。文書と使者の口上で足りると思う」

地位は、はるかに高い忠顕である。こけんもあるにちがいない。いちど書院へ入って、書簡をしたため、家司の重臣二人をよんで、こまごま、使いの口上をさずけてから、またもとの水亭へもどって来た。

「道誉、望みの件は、もう心配すな。あとは、例の楮幣の人気を、お辺がどんなふうに昂騰させるものやら、それをわしは見ているばかりだ。