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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 页

青空文庫

なぜか大塔ノ宮のお憎しみはつよい」

「ご同情をもちまする。ひそかには、正成も」

「おわかりだろう。しかも尊氏は、宮なればこそ何事も下にくだって、あえてその御無態にさからったことはない」

「さまざま、世の辛酸に会われたようでも、もともと深宮のお育ち、真の世間、人間がおわかりというのではありません。英邁ではあらせられるが、一面のご気性には、周囲の虚勢、排他、利害などの私心に乗じられるおそれも多分にないではない。それが足利殿とのあいだに、魔と影のごとき、禍いの因をなしておるものとおもわれまする」

「そのとおりだ。さりとて宮の高いご位置にあって、その魔形の輩を自由自在にお使いあるにはどうにもならぬ。この尊氏はどうしたらいいのか」

「いや宮ご自体のお心ではありません」

「では、たれの心」

「誤解という、いわれなき魔、形なき魔のする業です。左兵衛ノ督さま。およばぬながらも、この正成がおもてを冒して、そのことにつき、宮へはご諫言をこころみまする。依って、あなたさまも直々、宮のおん許へ伏して、あらぬ御嫌疑をお解きなさるべきではありませぬか」

「むだだ。おそらくは」

「なぜです」

「禍根は、宮の上にもある」