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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 页

青空文庫

「弘徽」「麗景」「登花」の八殿に擬せられている大屋根と大屋根との谷はずいぶん長い、そしていく曲がりもしている廻廊だった。

「お気をつけ遊ばして」

たえず、宮の足もとを脂燭で照らしながら、かがみ腰で先にあるいていた式部の権ノ大夫在房は、中坪へ面する廊へかかると、雪がうッすらと通り道にまで吹きこんでいるところもあったので、そのたびには、自分のせいみたいに、

「申しわけございませぬ」

と、あやまったりして行くのであった。

「在房」

「は」

「よい雪だの」

「まことに」

「しかも初雪の御宴とはこれも近ごろ珍しい。護良など御会のお召にあずかったことはない」

「上卿がたでも、お覚えのない方が大半なのではございますまいか」

「そうだろう。して御前には、すでに大勢お集まりか」

「は。かの君、この君と、はや夕の灯ごろから文武のべつなく、仮の藤壺をめぐって、お歌やら御酒やらに、打ち興じておわせられまする」

尊氏は?

とは、宮はお訊きにならずにしまった。

五節はもちろん、残菊の宴、重陽の会などは、恒例の宮廷年中行事であるが、選虫の会だとか、初雪見参などは、むかしからめったになかった御遊らしい。