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かがくとぶんがく

科学と文学

寺田 寅彦

「世界文学講座」1933(昭和8)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,562 字 · 50 页

青空文庫

すでにそれらのものは心理学者の研究資料となり彼らの論文に引用されるくらいである。

一見非写実的、非自然的な文学であってもよくよく考えてみるとやはり立派な実験と考え得られないことはない。

たとえば神話を取り扱った超人の世界の物語でも、それらの登場人格の仮面を一枚だけはいでみれば、実は普通の人間である。ただ少しばかり現実の可能性を延長した環境条件の中に、少しばかり人間の性情のある部分を変形し、あるいは誇張し、あるいは剪除して作った人造人間を投入して、そうして何事が起こるかを見ようとするのである。ジュリアンの「ほんとうの話」の大法螺でも、夢想兵衛の「夢物語」でも、ウェルズの未来記の種類でも、みんなそういうものである。あらゆるおとぎ話がそうである。あらゆる新聞講談から茶番狂言からアリストファーネスのコメディーに至るまでがそうである。笑わせ怒らせ泣かせうるのはただ実験が自然の方則を啓示する場合にのみ起こりうる現象である。もう少し複雑な方則が啓示されるときにわれわれはチェホフやチャプリンの「泣き笑い」を刺激され、もう一歩進むと芭蕉の「さびしおり」を感得するであろう。