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しんのゆうしゅう
秦の憂愁
豊島 与志雄
「文芸」1944(昭和19)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,389 字 · 19 页
」
そう言って秦は笑った。星野の胸にその笑いが、鋭いものを伝えた。
賑かな大通りに出ると、張は三輪車を三台つかまえた。星野は秦の横に乗せられた。頭も身体もふらふらしていた。
静安寺路の奥まったダンスホールに一同ははいった。特別な待遇を受けたらしかった。強烈な酒が出された。
音楽は拙劣だったし、妙に客も少くて淋しかったが、いつのまにかじみな衣裳のダンサーが大勢、同席に来ていた。秦は巧みに踊った。星野も少しく踊った。
星野は急に意識がぼやけてきた。時の経つのが分らなくなった。何もかも忘れかけた。
皆が立ち上る気配に、星野も立ち上った。へんに騒々しい静けさを感じた。路地に出た。外は暗かった。
ここまで付き添ってきていた二人の青年が、突然駈けだした。叫声が起った。秦の姿は見えなかった。星野は衝動的に街路へ走った。眼が覚めた感じだった。
淡い明るみの中に、人立ちがあった。数名の者が走っていた。人立ちのなかに張浩が地面に倒れていた。横腹から血が流れ出していて、身動きもしなかった。
星野は秦を見出した。昂然……という感じでつっ立っていた。その腕を掴むと、彼は振り向いた。