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あな

穴

黒島 伝治

1928(昭和3)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,328 字 · 23 页

青空文庫

彼も、じっと老人を見た。

四

何故、憲兵隊へつれて来られたか、その理由が分らずに、彼は、湿っぽい、地下室の廊下を通って帰るように云われた。彼は自分が馬鹿にせられたような気がして腹立たしかった。廊下の一つの扉は、彼が外へ出かけに開いていた。のぞくと、そこは営倉だった。

「偽札をこしらえた者が掴まったそうじゃないか、見てきたかい?」

兵舎へ帰ると、一人で将棋盤を持出して駒を動かしていた松本が頭を上げてきいた。

「いや。」

「朝鮮人だそうだよ。三枚ほど刷った五円札を本に挟んで置いてあったそうだ。」

「誰れからきいた?」

「今、尿道注射に来た憲兵が云っとった。密偵が見つけ出して来たんだ。」

密偵は、鮮人だった。日本語と露西亜語がなか/\達者な、月三十円で憲兵隊に使われている男だった。隊長は犯人を検挙するために、褒美を十円やることを云い渡してあった。密偵は十円に釣られて、犬のように犯人を嗅ぎまわった。そして、十円を貰って嬉しがっている。憲兵は、松本にそういう話を笑いながらしたそうだ。

「じや、あの朝鮮人かもしれん。今さっきまで憲兵隊で同じ机に向って坐っとったんだ。