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あな

穴

黒島 伝治

1928(昭和3)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,328 字 · 23 页

青空文庫

」

彼は、ひょっと連想した。

「どんな奴だ?」

「不潔な哀れげな爺さんだ。」

「君は、その爺さんと知り合いかって訊ねられただろう?」松本は意味ありげにきいた。

「いや。」

「露西亜語を教わりに行く振りをして、朝鮮人のところへ君は、行っとったんじゃないんか?」

「いつさ。」

「最近だよ。」

「なぜ、そんなことをきくんだい?」

半里ばかり向うの沼のほとりに、鮮人部落がある。そこに、色の白い面長の若い娘がいる。このあたりの鮮人には珍らしい垢ぬけのした女だ。それを知らないか、松本はそうきいた。

と、彼は、それと同じことを、鮮人部落の地理や、家の格好や、その内部の構造や、美しい娘のことなどを、執拗に憲兵隊で曹長に訊ねられたことを思い出した。

「女というものは恐ろしいもんだよ。そいつはいくらでも金を吸い取るからな。」

松本は、また、誰れを指すともなく、しかし、それは、街のあの眼の大きい女であることをほのめかしながら、云った。

ほかの同年兵達が、よそ/\しい疑うような眼をして、兵舎へ這入って来た時、彼は始めて自分があの鮮人から贋造紙幣を受取っていやしなかったか、そのことを試されているのに、気づいた。