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くうちゅうひょうりゅういっしゅうかん

空中漂流一週間

海野 十三

「名作」1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,324 字 · 35 页

青空文庫

「火の玉」少尉

「うーん、またやって来たか」

と、田毎大尉は、啣えていた紙巻煙草をぽんと灰皿の中になげこむと、当惑顔で名刺の表をみつめた。前には当番兵が、渋面をつくって、起立している。

ここは帝都に近い××防衛飛行隊本部の将校集会所だった。

「ほう、大尉どの。誰がやって来たのでありますか」

一週間ほど前に、この飛行隊へ着任したばかりの戸川中尉が、電話帳を繰る手を休め、上官の方に声をかけた。

「うむ、例の『火の玉』少尉が、またやって来たのだ」

「えっ、『火の玉』少尉?」

といって、戸川中尉は眉を高くあげ、

「ああ六条のことですな。あの六条のやつは、こっちにいましたか」

戸川中尉は、少年のように眼をかがやかせ、入口の方をふりかえった。しかしそこには、誰の影も見えなかった。

そもそもこの「火の玉」少尉とよばれる六条壮介と戸川中尉とは、同期生だったのだ。そして嘗ては、ソ満国境を前方に睨みながら、前進飛行基地のバラックに、頭と頭とを並べて起伏した仲だった。

この二人は、無二の仲よし戦友だったけれど、二人の性格は全くあべこべだった。戸川中尉が飛行将校にもってこいの細心で沈着な武人であるのに対し、六条の方はその綽名からでも容易に察せられるごとく、満身これ戦闘力といったような感じのする頗る豪快な将校だった。