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くうそうにちろく

空想日録

寺田 寅彦

「改造」1933(昭和8)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,488 字 · 21 页

青空文庫

これは当然のことであろう。

以上とはまた反対の場合もたくさんある。陶工が凡庸であるためにせっかく優良な陶土を使いながらまるで役に立たない無様な廃物に等しい代物をこね上げることはかなりにしばしばある。これでは全く素材がかわいそうである。しかし学問の場合においては、いい素材というものは一度掘り出されればいつかは名工に見いだされて立派なものに造り上げられるもののように思われる。古い話ではあるがティコ・ブラーヘの天体観測の結果は、幾度か非科学的な占筮の用にも供せられたのであろうが、結局は名工ケプレルの手によって整然たる太陽系の模型の製作に使われた。ニュートンはまたこのケプレルの作ったものを素材として、さらに偉大な彼の力学体系を建設した。これと同様な例をあげれば限りはないであろう。

三越で陶工の作業を見た帰りの電車の中でこんな空想を起こしてみたが、あとになってもう一ぺん考え直してみると、陶工の仕事と学者の仕事との比較には少なからず無理なところがある。学問の場合には、素材というものの価値が実は非常に重大である。いい素材を発見しまた発掘するということのほうがなかなか困難であってひと通りならぬ才能を要する場合が多く、むしろそれを使って下手な体系などを作ることよりも、もっとはるかに困難であると考えられる場合も少なくはない