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くうしゅうそうそうきょく
空襲葬送曲
海野 十三
「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页
弦三は、それを聞くと、ムクムクッと起きあがって、諸手で受信機を頭上高くもちあげると、
「やッ!」
と壁ぎわに、叩きつけた。
「うぬ、空襲葬送曲まで、米国のお世話になるものか、いまに見ておれ、この空襲葬送曲は、熨斗をつけて、立派に米国へ、返してやるから……」
死にかかっている青年にも、それが通じたものか、燃えのこった蝋燭の灯の蔭で、満足そうに、ニッと笑った。
爆撃下の帝都
呻きつつ、喚きつつ、どッどッと流れてゆく真黒の、大群衆だった。
彼等は、大きなベルトの上に乗りでもしたように、同じ速さで、どッどッと、流れてゆくのだった。
「やっと、新宿だッ」
誰かが、隊の中から、叫んだ。
「甲州街道だッ。もっと早く歩けッ!」
「中野の電信隊を通りぬけるまでは、安心ならないぞォ!」
嗄れた、空虚な叫喚が、暗闇の中に、ぶつかり合った。
群衆の半数を占める女達は、疲労と恐怖とで、なんにも口が利けないのだった。唯、母親の背で、赤ン坊が、ヒイヒイと絶え入りそうな悲鳴を、あげていた。
この大群衆は、東京を逃げだしてゆく市民たちだった。爆弾と、毒瓦斯と、火災とに追われて、生命を助かりたいばっかりに、めいめいの家を後に、逃げだしてゆく人々だった。