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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

「瓦斯だッ」

と気のついたときには、既に遅かった。魚の腸が腐ったような異臭が、身の周りに漂っているのだった。胸の中は、灼鉄を突込まれたように痛み、それで咳が無暗に出て、一層苦しかった。胸から咽喉のあたりを締めつけられるような気がした。金魚のように、大きく口をパクパクやったが、呼吸はますます苦しくなった。頭がキリキリと痛くなり、眩暈がしてきた。前の人間の肩をつかもうとするが、もう駄目だった。地球が一と揺れゆれると、堅い大地が、イヤというほど腰骨にぶつかった。全身が、木の箱か、なんかになってしまったような感じだった。

「うー、痛ッ」

誰かが、太股を踏みつけた。

「うーむ」

腹の上を、靴で歩いている奴がいる。

「うわーッ」

胸の上で躍っているぞ。肋骨が折れる、折れる。

「ぎゃーッ」

頭を足蹴にされた。腹にも載った。胸元を踏みつけては、駆けだしてゆく。あッ、口中へ泥靴を……。

あとは、なにがなんだか判らなかった。

パタリパタリと、群衆は、障子を倒すように、折重なって倒れていった。

街の片端から、メラメラと火の手があがった。濛々と淡黄色を帯びた毒瓦斯が、霧のように渦を巻いて、路上一杯に匍ってゆく。