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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

死屍累々、酸鼻を極めた街頭が、ボッと赤く照しだされた。市民の鮮血に濡れた、アスファルト路面に、燃えあがる焔が、ギラギラと映った。横丁から、バタバタと駈け出した一隊があった。彼等は、いずれも、防毒マスクを、頭の上から、スッポリ被っていた。隊長らしいのが、高く手をあげると、煙りの中に突進していった。後の者も、遅れずに、隊長のあとを追った。それは任務に忠実な、生き残りの青年団員でもあろうか。

近くに、サイレンの響がした。毒瓦斯の間からヒョックリ顔を出したのは、真赤な消防自動車だった。だが、車上には、運転手の外に、たった二人の消防手しか、残っていなかった。その中の一人は、マスクの上から、白い布で、いたいたしく、頭部をグルグル捲きにしていた。

消防自動車は、ヨロヨロよろめきながら、燃えあがる建物めがけて、驀進していった。二人の消防手は、いつの間にか、舗道の消火栓の前で、力をあわせて、重い鉄蓋をあけようと試みていた。

郊外へ遁げようと、洪水のように押出してきた、さしもの大群衆も、前面から襲ってきた毒瓦斯に捲きこまれて、一溜もなく、斃れてしまった。雑沓の巷は、五分と経たぬ間に、無人郷に変ってしまった。