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くうしゅうけいほう
空襲警報
海野 十三
「少年倶楽部」別冊付録、大日本雄弁会講談社、1936(昭和11)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,838 字 · 92 页
それも一方へ進んでいるうちはよかったけれど、そのうちに誰かが流言を放ったらしく、先頭がワーッというと、われさきに引きかえしはじめた。とたんに、どこから飛んできたのか火の子が、荷物の上でパッと燃えだしたので、さわぎは更にひどくなった。
「オイ、女子供がいるんだ……押しちゃ、怪我する。あれこの人は……」
「さあ、逃げないと生命がたいへんだ。どけ、どかぬか……」
「うわーッ」
蜂の巣をついたようなさわぎになった。そうさわぎだしては、助かるものも、助からない。群衆は、ただわけもなくあわて、わけもなく争い、真暗な街道には、あさましくも同士うちの惨死者が刻々ふえていった。
「あわてちゃいかん」
「流言にまどうな。落着けッ!」
声をからして叫ぶ人があっても、いったん騒ぎだした人たちを鎮める力はなかった。日本国民として、この上もなく恥ずかしい殺人が、十人、二十人、三十人と、数を増していった。ああ、このむごたらしい有様! これが昼間でなかったのが、まだしもの幸いだった。あわてた人間には大和魂なんて無くなってしまうものなのか?
旗男は、命からがら、この殺人境からのがれ出た。いくたびか転びつつ前進してゆくほどに、やがて新しい道路に出たと思ったら、いきなり前面に、ピリピリピリと警笛が鳴ったので、おどろいて立ちどまった。