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くうしゅうけいほう

空襲警報

海野 十三

「少年倶楽部」別冊付録、大日本雄弁会講談社、1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,838 字 · 92 页

青空文庫

これを聞いて、乗客たちは又色を失った。いよいよたいへんなことになった。この列車は毒瓦斯の中を通ることになったのだ。

「車掌さん、防毒面は貸してくれないのですか」

学生団から不安にみちた声がした。

「どうも配給がありませんので……」

「オイ車掌君。金はいくらでも出す。至急、防毒面を買ってくれたまえ」

一人の紳士があたり憚らない声をだした。

「お気の毒さまで……。室全体の防毒で、御辛抱ねがいます」

「じゃ君に百円あげる。拝むから、ぜひ一つ手に入れてくれたまえ」

紳士は泣きだしそうな顔で紙入をだした。

「お断りします」

車掌はキッパリいって、次の車室へドンドン歩いていった。

「おお、そこの子供くん。君は可愛い子だ」

と、紳士は旗男のところへヨロヨロと近づいた。

「二百円あげるから、その防毒面を売ってくれたまえ。私は肺が悪い、病人だ。ね、売ってくれるだろう。三百円でもいい」

旗男は困ってしまった。すると隣に腰をかけていた鍛冶屋の大将が、旗男をかばうようにしたかと思うと、食いつきそうな顔で紳士をにらみつけた。

「この馬鹿野郎!」

その破鐘のような声に吹きとばされたか、がりがり亡者の紳士は腰掛の間に尻餅をついた。