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くうしゅうけいほう

空襲警報

海野 十三

「少年倶楽部」別冊付録、大日本雄弁会講談社、1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,838 字 · 92 页

青空文庫

そのとき、扉がガラリと開いた。車掌が入ってきて目を輝かせた。

「これはこれは、この部屋は大出来ですね。よくやって下すった。これなら大丈夫でしょう」

車掌はいく度も室内をみまわしながら、次の車室へ向かった。

それから十分ののち、列車内には毒瓦斯警報が出た。いよいよ恐ろしき毒瓦斯地帯へ、音もなく滑りこんだ。車室内の全員は、さすがに黙って、鼻に全神経をあつめた。

一分、二分、三分……。今にもホスゲン瓦斯の堆肥に似た臭が鼻をつくかと心配されたが、四分たち、五分たっても、なんの変った臭もして来ず呼吸はふだんと変りなくたいへん楽であった。

(ああ、助かった!)

室内の誰もが、自分の胸のうちで、同じ事を叫んだ。そうだ、助ったのである。みんなは恩人である鍛冶屋の大将の方をふりむいた。かの大将は、急造の防護壜を前に並べて、腕ぐみをし、大きな鼻を豚のようにブウブウ鳴らしていた。その時だった。後の車室の方で、にわかに、ただならぬざわめきが聞えてきた。続いて、何かドタンドタンと大きな物がぶったおれるような物音がした。ガタガタガタンと、あわてて扉を引きあける音がして、とたんにヒイヒイと獣が泣くような気味の悪い声が近づいて来た。