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まどにさすかげ

窓にさす影

豊島 与志雄

「小説公園」1952(昭和27)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,068 字 · 26 页

青空文庫

お父さまやお母さまもいらっしゃるけれど、なにか気が滅入るような時には、叔母さんところにも遊びにいらっしゃいね。」

私は深く頷いたが、叔母さんの手を強く握り返す力はなかった。

家の中は、歯がぬけたような淋しい感じだった。夕食の時、父と兄は、いつまでも食卓を離れないで酒を飲んだ。私は自分の室に引っ込んで、改めてまたいろいろな物を片附け整理した。

博多人形の、手毬のところが欠けた跡が、白く生々しかった。そこが見えないような向きに人形を置いた。けれど、窓の磨硝子の戸は私の方を向いていて、今にも、そこに何かがちらちら映りそうだった。祖母のにこにこした顔は、もうどこか遠いところにあった。のっぺらぽうの顔も、もうすっかり薄らいでいた。私自身の影にも、私はもう驚かないだろう。だが、ほかに、何か怖いものがあった。うっかりしてる隙間に、その影が硝子戸に映りそうだった。

私は早めに寝た。明日からのことに思いを集注して、あれこれ空想しているうちに、妖しい妄想の中にはいり込んだ。

いやに犬が鳴いた。うちの犬は、夜は解き放しになっていたが、それが庭を歩き廻って鳴いた。塀の外でも、よその犬が鳴き、なおあちこちの犬が鳴いた。