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りっしゅんのたまご

立春の卵

中谷 宇吉郎

「世界」1947(昭和22)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,450 字 · 17 页

青空文庫

すなわち卵の表面の凸部と板とが、直径百分の一乃至二粍くらいの円で接し、そういう接点が、十分の八粍くらいの距離で、三点あるいは四点あって、卵をささえているのである。

そうすると、卵がどれくらい傾いたら、重心線が底の三点の占める面積をはずれるのか、すなわち卵が倒れるかという計算が出来る。重心の高さを二糎半として、それが横に半粍ずれる時の傾きは、約一度である。それで一旦立った卵は、一度くらい傾くまでは安定であって、それ以上傾くと倒れるはずである。事実机の上に卵を立てて、ごく静かに机をゆすぶってみると、卵は眼に見える程度に揺れることが認められるが、それでもなかなか倒れない。もっとも少しひどくゆすぶれば倒れることはもちろんである。眼に認められるくらい揺れるというのが、だいたい一度くらいであろう。これで卵の立つ力学はおしまいである。

こういう風に説明してみると、卵は立つのが当り前ということになる。少くもコロンブス以前の時代から今日まで、世界中の人間が、間違って卵は立たないものと思っていただけのことである。前にこれは新聞全紙をつぶしてもいい大事件といったのは、このことである。